今週の『サンデー毎日』のトップは「メディアよ、国家と組織の闇を暴け」。文藝春秋社の顧問弁護士を30年以上務めてきた「文春砲の守護神」喜多村洋一弁護士のインタビュー記事だ。サブタイトルには「ジャニーズ、フジ問題、西山事件の核心」とある。いまや歴史の彼方にある「西山事件」(外務省機密漏洩事件)まで取り上げて、質問に含める感覚には少し驚くが、いずれにせよ普段はあまり目にしないメディアの法的な側面の専門的解説は興味深い。


 記事によれば、喜多村氏は東大を出て弁護士になったあと、米国に留学して言論や表現の自由について学び、ニューヨーク州の弁護士資格も持つようになったメディア問題の専門家だ。日本への帰国後は、司法記者クラブの記者にしか許されていなかった一般傍聴者の法廷メモを認めさせる判決を勝ち取ったり、在外邦人の選挙権制限を違憲とする判決で公職選挙法の改正を実現させたりと、いくつもの注目裁判で実績を重ねてきた。


 マスコミ全般がマスゴミ呼ばわりされ、週刊誌のスキャンダル報道は「嘘ばかり」と決めつけられる今日この頃だが、文春絡みの訴訟を「何百件もやった」という喜多村氏の話では、文春の事情は他と少し違う。「(メディアを訴える一般的訴訟で)最近はメディア側が負けることが多いが、そんな中では(文春は)圧倒的に勝っている」と言うのである。その強みは何より「組織的な取材」にあると言い、たとえば19年参院選における河井克行・案里夫妻の選挙違反報道では、約50人の編集部員のうち13人もの記者を現地広島に突っ込んで、口裏合わせができぬよう同時刻に一斉に取材させたという。


 故ジャニー喜多川氏による性加害問題でも丹念に証人を集め、一審では敗訴したが控訴審で逆転、最高裁でも勝訴して、先のBBCドキュメンタリーより20年も早く、ジャニー氏を断罪した。しかし、当時は他メディアのほとんどがこの訴訟を黙殺し、ジャニー氏は結局、その責任を社会から問われることのないままに生涯を終えた。「事務所側もメディアもおかしかった。ジャニーズ問題とは、反省しない事務所と、書かないメディアの『合作』だったと思う」


 前回の本欄でも触れたが、第2次トランプ政権が矢継ぎ早に打ち出す新たな政策で、米国の外交や統治機構はメチャクチャになりつつある。ウクライナ戦争では、ロシアのプーチン氏を擁護してゼレンスキー氏を批判、ウクライナ東部をロシア領にする格好で戦争を終わらせようとしている。バンス副大統領はミュンヘンでの安全保障会議で、欧州にとっての脅威はロシアや中国でなく欧州の「内部にある」として、各国の移民政策やSNS規制を非難、ドイツなどで台頭する右派ポピュリズム勢力に肩入れする演説をした。また、トランプ氏は21日、黒人の統合参謀本部議長や女性の海軍作戦部長など軍の制服組トップ5人の更迭を発表した。


『週刊文春』の連載コラム「池上彰のそこからですか」では、「イーロン・マスクは何してる?」と題し、このメチャクチャさの一例として、マスク氏が政府効率化省のトップとなりUSAID(国際開発局)をはじめ政府各部局で大量首切りの「やりたい放題」をしていると書いている。戦後、西側陣営の盟主であり続けた米国大統領の困った「ご乱心」。ゼレンスキー大統領の「見捨てられ方」を見ていると、「台湾有事は日本有事」などと対中国の矢面に立つ間に、いつの間にかハシゴを外される最悪の展開も思い浮かぶ。石破・トランプ会談の「なごやかさ」に安堵するだけでなく、そういった世界秩序の大転換を丁寧に読み解いてゆく記事を読みたいが、そのレベルの「書き手」が悲しいかな、昨今のメディアには見当たらない。


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三山喬(みやまたかし) 1961年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。98年まで13年間、朝日新聞記者として東京本社学芸部、社会部などに在籍。ドミニカ移民の訴訟問題を取材したことを機に移民や日系人に興味を持ち、退社してペルーのリマに移住。南米在住のフリージャーナリストとして活躍した。07年に帰国後はテーマを広げて取材・執筆活動を続け、各紙誌に記事を発表している。著書は『ホームレス歌人のいた冬』『さまよえる町・フクシマ爆心地の「こころの声」を追って』(ともに東海教育研究所刊)、『国権と島と涙』(朝日新聞出版)など。最新刊に、沖縄移民120年の歴史を追った『還流する魂: 世界のウチナーンチュ120年の物語』(岩波書店)がある。